三人目の幽霊 (創元クライム・クラブ)

MYSCON6の企画のために入手したもの。この作者は未読でした。解説にもある通り「日常の謎」と「落語」が絡むので北村薫を連想します。似ていると言えば似ているし、似ていないと言えば似ていない。そりゃそうだ。同じ題材を使っても作家が違えば違うものが出来ると思いませんか?レシピ通りに作っても作る人によって微妙に味が違う料理が出来るように。北村薫とのことはこれくらいにして。
収録の5編のうち、『不機嫌なソムリエ』は唯一落語のモチーフが登場しないお話です。これは、ミステリ的には非常に無理がある作品と言ってもいいでしょう。けれど、冒頭のシーンの洒落た感じとその直後のアームチェア・ディティクティヴを思わせる1シーン、そしてテンポの良い展開があるので無理な部分をかなりカバーしていると思います。「日常の謎」系ミステリは普通のミステリより動機が重視される物語だと思いますが、これは特にそれを思わせるものがあります。ワインがミステリに絡むパターンの一つを踏襲しているのですがワインのある特徴が動機に生かされている良質のミステリとして読むことができました。
5編のうち、私が一番好きな話は三番目の『三鶯荘奇談』です。解説にもある通りミステリとしてはアンフェアもいいところなのですが、ジャンル分けにこだわる必要もないでしょう。サスペンス色溢れる展開と後味のいいラストに、長編小説を読んだ気がしてしまいました。ミステリとしてアンフェアでも、決して、読後に本を投げつけたくなる気分にはならないことを保証いたします。おすすめの短編集です。

三人目の幽霊 (創元クライム・クラブ)

三人目の幽霊 (創元クライム・クラブ)