消える「水晶特急」 (光文社文庫)

吉敷刑事が登場するシリーズの長編。島田荘司の魅力は謎の派手さであると思う。(この作品に限らないかもしれないが)はっきり言って、作者はこの謎が書きたかったためのこの物語を書いたのだと思う。日本中が注目する新型車両「クリスタル・エクスプレス」のお披露目の最中にハイジャック(列車の場合はレールジャック?)が起こった上にその車両が消えてしまうのだ。
前半は人質の一人である女性記者夜片子の視点で物語が進行する。人質は女性ばかり数人。夜片子は犯人に怯えながらも隙を伺い、脱出の方法はないか考え続ける勇敢な女性。犯人は無線機で外部と交信しており、無線機の先には吉敷がいる。読者にとって安心なことに、この事件を解決できるのは吉敷しかいない。読者は逸る気持ちを抑えながらページを捲らなくてはならない。
トリックのうち、一部は読者にも分かるように書かれている。が、謎の解明はそう簡単には行われない。解決の章では、夜片子の同僚であり親友の弓芙子が、消えた夜片子を追う物語に付き合わされる。消えた列車を追うマスコミ各社と何故か沈黙する警察。弓芙子もまた、夜片子を探す情熱を持ち続ける勇敢な女性だった。最初は何も知らない弓芙子の行動をもどかしく感じるが、物語の謎は読者が想像する以上に複雑な要素が絡み合っていた。
謎の提示の章はテンポよく進むが畳む章では妙に演出的な記述が増え、読者は非常にやきもきさせられる。この部分をよしと感じるか否かは人それぞれだが、私は、魅力的な謎に対して解決は「ガッテン」というほど綺麗にまとまっていないので演出は必要な条件であり、無駄なことではなかったと思う。伏線が充分でない部分がありそこを前半に盛り込めば綺麗だったのかもしれないが、作者は謎の魅力を削がないためにあえて、伏線不足のまま進行させたのかもしれない。
島田荘司の魅力的な謎の虜になってしまった読者は、最後の1ページまで絡め取られたままだ。ちなみに吉敷のイメージはドラマ化の際の鹿賀丈史。描写もさほど外れていないので作者も同じかもしれない。

消える「水晶特急」 (光文社文庫)

消える「水晶特急」 (光文社文庫)