『仁木兄妹の探偵簿―雄太郎・悦子の全事件〈1〉兄の巻』

作者と同名の「仁木悦子」と悦子の兄「雄太郎」が探偵役として活躍する短篇集。初出は色々だが、仁木兄妹ものとして編みなおしたもの。
仁木悦子は過去に一通り読んでいるので、再読になるが、その魅力に今改めて気付いた。島荘ならこれで長篇を書くだろうなぁ、という魅力的な謎を、仁木悦子は短篇に惜しげもなく使ってしまう。例えば『弾丸は飛び出した』では、TVから弾丸が飛び出したとしか思えない射殺(未遂)事件が起こる。悦子も現場に居合わせており、目撃者の捏造とは考えられない。警察も頭を抱える事件を雄太郎が解決する。それぞれの短篇の短い枚数の中には謎を解くための最低限の描写があるだけでそれ以外の要素は一切ないと言っていい。だから枚数は短くても濃いミステリを読むことができるのだが、だからと言って、無味乾燥なパズル小説ではない。優しい作風であることは事実だが、作者は登場人物たち全員を優しさで包み込んではいない。甘さを引き出すために敢えて塩を入れるように、彼女が人間を見る目は優しく、鋭い。
著作の多くは角川・講談社文庫として刊行されているが、現在は絶版。けれどブックオフなどで比較的容易に手に入れられる(と思う)。