『アマゾン・ドット・コムの光と影』横田増生

私がこの本で一番気に入らないのは、作者が古書を買うエピソード。

『プレイボーイ・クラブ潜入記』という本を見つけた。(中略)しかし絶版となっており、市内の図書館にも置いてなかった。(中略)ネットで探すと、取り扱っている古本屋を一軒だけみつけた。しかし(中略)1200円の本に2000円の値段がついている。

古書は、それを所持している古書店の値付が値段だと思う。20年前に出版され、当時の定価が1200円なら、古書価2000円は妥当だと思う。ま、これは私の感覚だけど。更に、アマゾンでは本の返品が容易であることを作者は評価しているけれど、本は返品できない、という感覚が私の中にはある。ここを読むであろう本読みの方々は如何だろうか?
しかし、古本屋の業界にブックオフが参入して、人々の古書に対する認識や感覚は大きく変わっただろう。昔の古書業界では、客から「何で古本なのに定価より高いの?」という質問をされるという想定はしていなかっただろうけれど、そういう感覚の客が増えてきた以上、業界も変わらざるを得ないだろう。昔のやり方で客と感覚を乖離させたまま、静かに朽ちていくのも、業界がそれを選ぶなら仕方がない。
全ての客に迎合してやり方を大幅に変えることは旧来の客を離れさせる結果になるので、理想は、私も変わるからあなたも変わってよ、である。客も、業界も歩み寄っていい立ち位置を探り合ればいいと思う。それは理想論だとしても、少なくとも変わる努力はできると思う。
むしろ、本は恵まれていると思う。新聞や雑誌では「本を読め」と叫びまくっている。教育の現場でも読書は奨励されている。中立の立場であるはずのマスコミが大々的に一つの趣味を奨励しているんですよ?「スキューバをやれ」とか「釣りをやれ」とか、見たことないのに「本を読め」はどこでも見かける。こういう、本を読むことはいいことだ、みたいなやり方はどうかと思うけれど、そこまでしていてそれでも本を読まない人がいる、と出版社は、書店は言うのですか?いくら日本中がサッカーに注目していても、TVを見ない人もいるんですよ。そういう人に「サッカーを見ないなんておかしい」というのはおかしいよね。
話が逸れました。
著者本人が自分の本を沢山買ったことを、作者はランキングのため、と推理しているけれどそれは違う気がする。20冊程度でどうにかなるランキングでもないだろう。私はもっと単純に、緊急に20冊必要だった(例えば外国から友達が来て、著書謹呈したい。けれど手元にはないし版元は時間がかかる。アマゾンの方が早く確実に手に入る・・・とか)、という理由ではないかと思う。

うまくまとまらないのだけれど、本という商品の流通に対する作者との感覚の違いを随所に感じる本だった。けれどそれは私が特殊なのかもしれない。問題は、業界がそれを感じているかということなのではないか?