読書

「記念日」がコンセプトのオムニバス短篇集。トリックは途中でだいたい分かってしまうけど、この作品の読みどころはそのオチをどうやってつけるか、です。ここを間違えてしまうと依頼人(やその周りの人)を傷つけてしまうことになる。それは事件を解決するよりもずっと難しいことかもしれない。でも、野上さんと俊介くんはそれをも解決してしまうのです。そして、この物語は「悪い人」が出てきません。悪い人っていうのは物語の中で悪いことをしてしまう人のことと、嫌な人という意味ですが、その、嫌な人がいないのです。そんなの不自然だって思うかもしれない。悪かった人も改心(?)していい人になってしまったり、最初は嫌な人だと思っていたのによく見て見るとそんなに悪い人じゃないみたいだ、という感じで誰も悪い人がいない。
太田さんの力量としてそういうキャラクターを描けない訳がないと思います。けれどわざと書かないのは、この世界が俊介くんを通した子どもの世界だからじゃないかと思います。このシリーズは徳間ノベルズから出ているけどデュアル文庫で文庫化されているし、いわゆる「ラノベ」世代が読むことを意識されて書かれていると思います。大人の世界では、正しいことを正しいと認められなかったり嘘をついたり、そういう嫌な人がいるけれど、俊介くんの世界ではそういう人も改心して、いい人になるんだよ、ということを信じていたいんじゃないかなぁ。
それにしても、久しぶりの俊介くんに「おかえり!」という気持ちです(4年ぶりなんですねー)。そう言ったら俊介くんは困ったように笑ってくれるのかしら。俊介くんは頭がいいんだけどとても遠慮深くて、欲しいものを欲しいとなかなか言えないかもしれない。だから周りのアキさんや美樹ちゃんがどんどん俊介くんに関わっていって、彼に幸いを齎してあげることができたらいいと思う。





もう一つ。これで「おおいぬ荘」は完結です。スラムダンクサイバーフォーミュラだったのかしらという気がしないでもありませんが、スラムダンクはよく知らないのでこれ以上言いますまい。
月夜野女史と菅野さんの二人が書いているのだけれど特に違和感はないし担当キャラクターも横断して登場する。菅野さんは月夜野女史のキャラである征雄が・・・てしまい(一応ネタバレ防止)、とても困っていた。その様は特に7巻の健太の使い方に現れている。苦肉の策だなぁ。
こちらの巻では泣かなかった・・・のは明生のキャラクターに救われていると思う。月夜野女史もとても上手で櫂と沓のエピソードは泣くところかもしれないけど何故か月夜野女史パートでは泣けない。泣けないというだけで読んでいてとても面白いし心にも響いているのだけれど。何て言うか・・・菅野さんは感情をあまり調理しないでそのまま、素材の味を生かしている感じがする。月夜野女史は丁寧に裏ごしして、懐石料理が出てくる。その違いかもしれない。私は素材そのままの方が好きなのだけれど。
あとがきまんがも必見です。