『春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)』米澤穂信

小鳩くん(この名前を見ると谷川史子を思い出すが特に関係はないんだろう)と小佐内さんの二人は「互恵関係」にある高校生。二人とも過去(多くは語られない)を捨て、小市民を目指している。けれど彼らに起こる事件が、彼らを小市民でいることを許さないのだった。
面白かった!創元得意の「人が死なないミステリ」ですが今までは「北村薫の亜流」感が拭えなかったけれども、ここで一新した感じです。まず厚さがいい。往復の通勤電車で読了できる程度のボリューム。ラノベ作家らしい(のかな?)小気味いい軽妙な文章。解説にもあるけど敢えて感情を書き込んでいないところが逆に今流か。それでいて「互恵関係」や「尼そぎ」というある意味妙な言葉を混ぜる辺り、一見あっさりして何の変哲もない味に見せかけておいて隠し味に手間をかけていて口に入れるとあっさりの奥に深い味わいがありながらも喉越しはいい料理のようです。量は少ないのに満足感たっぷり。
小市民を目指している、というのが新しいと思う。小野不由美が著作のあとがきで「少女たちは「自分は周りの子たちとは違う」ことを目指している。すると「普通の子」がいなくなるというドーナツ現象が起こる」(記憶で書きました)と書いていたが、ここではその空いてしまう穴であるところの「普通」を目指す二人なのだ。けれど読み終えて「普通の子」なんていないんじゃないか、ということに気付くのだ。
創元文庫だけど、良質のラノベ。創元文庫からこのような作品が出ていることは嬉しいけれども・・・創元文庫ってなかなか書店に置いてなかったりするからなぁ。東京創元社には失礼ですが、レーベルで読まれないのはもったいないと思います。

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)