『紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像 (ちくま文庫)』斎藤美奈子

紅一点とは中国の言葉で元々は大勢の凡人の中に賢人が一人という意味だったが現在では大勢の男性の中に女性が一人という意味になっている。これはそのまま社会の縮図であり、周りを見渡せば大勢の男性の中に女性が一人(ないし少数)という構図がよく目に付く。ここではアニメと伝記の世界に的を絞って紅一点の分類と役割とその意外な共通点を探る。
この人が言うと嘘も本当に聞こえる、と誰かが言っていたが、よく考えると強引な論理展開も目立つ。けれどそれらに気を取られずに読み進められるのは独特のリズムを持った文章の力による。読んでいる途中で気が付いたが、面白い授業ないし講演を聞いているような本なのだ。声で流れて行ってしまうから「あれ?」と思っても元には戻らない。その先が気になるだけ。
よく知られたアニメや伝記が紅一点論で解釈し直される手法は『妊娠小説 (ちくま文庫)』と同様。「そういえばそうだった」的な発見が多い。アニメに登場する女性(少女含)は何となく類型的な気がしていたが、作者がそこんとこを徹底的に分類し類型化してくれる。あぁ、そうか。それであのアニメは何となくあれに近いような気がしたんだ、と自らを振り返ることもしばしばかもしれない。
これはよくあるフェミニズム啓蒙本ではない。アニメ好きな男性にこそ手に取っていただきたい(マニアは細かいところにいちいち憤慨してしまうかもしれないが)。男性を糾弾する本ではないので、ご安心を。むしろ男性にこそ読んで欲しい。解説も男性だったらいっそ面白かったのに。

紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像 (ちくま文庫)

紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像 (ちくま文庫)