読書

我孫子武丸は『殺戮』とか『人形シリーズ』など幾つかは読んでるがそんなにいい読者でない。元々ゲームをやらないのでかまいたちの作者という認識もない。私の、我孫子武丸への印象は「器用貧乏」なのだ。『人形』や『の殺人』シリーズを読んで感じるのは「そこそこ面白い」なのである。文章も軽妙だしミステリとしても一定のレベルを保っている。けれど「またこの人の作品を読みたい」というパンチに欠ける。「そこそこ面白い」だけにそのことを(勝手に)とても残念に思っていた。
けれど、この作品はいい意味で予想を裏切られた。作者の文章は主人公を中学生にすることによって活き活きと動いている。作者は、(本が手元にないので記憶だが)あとがきで「子どもに媚びない」ことを信条に書いたと述べている。本来ジュヴナイルや児童文学作家でない作家がそのジャンルを書こうとすると異様に不自然な子どもが出来上がるが、この作品にはそれがない。むしろ、彼らが子どもだということを忘れてしまうこともしばしばだ。というのは、自分もいつの間にか彼らと一緒に冒険をしているような気がしてくるからだ。そこには大人も子どももなく、悩んだり、怖かったり、楽しかったりするただの一人の人間がいるだけ。
大人の登場人物も登場し、その人物が探偵役である。大人といっても型破りな大人であり、要するに彼は大人でも子どもでもない。彼は大人と子どもの世界の橋渡しの役割を与えられている。彼にかかるといつの間にか閉じていた子どもの世界が解体され、世界との交流を可能にする。
ミステリを「乙一語」で語った解説も楽しい。読み応えのある一冊でした。